【着物コレクション】
亡き母に譲られた梅柄の着物を着てお出かけ(写真提供:坂井さん/※坂井さんの自撮り写真は鏡を使用したものです)

半襟や羽織紐にも凝りたくなり、泥沼に

この作品は、着物が大事なモチーフになっています。美佐が祖母の時代箪笥を受け継ぎ、その中にあった祖母のものとは思えない1枚の銘仙の着物が、いわば謎解きのスタートとなるのです。

私自身、子どもの頃から母に着物を着せてもらうのが大好きで。お正月などは、「着せて、着せて」とねだったものです。

その母が亡くなったのは、私が15歳のとき。母が残した着物を自分で着られるようになりたいと思い、着付けを習い始めました。勧められるままに、師範の免状まで取ったんですよ。

当時まだ、着物といえば「礼装」のイメージがあったと思います。でも2002年に創刊された『KIMONO姫』という雑誌が形式にとらわれない和装を提案しました。当時大学生だった私はその雑誌に衝撃を受け、もっと自由に着物を楽しみたいと思うように。なかでもハマったのが、アンティーク着物です。

アンティーク着物は、もともと若い人から年配の人まで昔の人々が日常的に着ていた着物です。柄行にしても色合わせにしても、決して下品ではないけれど、ほんのり毒が含まれているものもあり、それが素敵で……。そのうち、半襟や羽織紐にも凝りたくなり、泥沼に入っていきました。(笑)

『花は散っても』(坂井希久子:著・中央公論新社)