「いつも着物や羽織、帯、小物などを床に並べてコーディネートを決めていくのですが、その時間も楽しいですね。」(撮影:本社写真部)
「アンティーク着物は、決して下品ではないけれど、ほんのり毒が含まれているものもあり、それが素敵で……」と語る、作家の坂井希久子さん。自他共に認める着物愛好家だ。そんな坂井さんが手がけた最新刊『花は散っても』は、謎の銘仙(大正から昭和にかけて流行した着物。斬新なデザインで人気を博した)が物語のカギとなる。坂井さんは、ここぞとばかりに「着物あるある」ネタを詰め込んだとのことで――(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

女学生どうしのほのかな恋心の要素も

『花は散っても』は、もともとは谷崎潤一郎没後50年メモリアルイヤー(2015~16年)に向けて書く予定でした。それがなぜ出版が今年になったのかというと、谷崎愛が嵩じすぎたから。谷崎を読み始めたのは高校時代で、大学の卒論テーマも谷崎。愛が強すぎて、まとめきれなくなったのです。

構想を練っている段階から、着物のネットショップを経営している39歳の美佐が主人公の現代パートと、美佐の祖母である咲子の目線で語られる昭和パートを融合させるつもりでした。

昭和パートは、当時「エス」と呼ばれた女学生どうしのほのかな恋心の要素もあり、私も《萌え萌え》な感じで、勢いで書くことができました。ところがそれをどう現代パートに絡めればいいのか。考えすぎてしまい、なかなか進まなくて――そんなとき、古今和歌集の紀有朋(きのありとも)の歌と出会ったのです。

「桜色に衣は深く染めて着む 花の散りなむ後の形見に」というのが、この作品のテーマにぴったりと思い、「花は散っても」というタイトルも思い浮かびました。

谷崎の作品の中で一番好きな「蘆刈」という短編小説の中に、お遊さまという美しい女性の面影を忍んで、後年ある男が襦袢に頬を寄せるというシーンがあります。それをちょっと彷彿とさせるシーンも書き――谷崎オマージュから始まり、紀有朋の歌、そして現代がきれいにつながった気がしました。