「病気知らずの元気な母さん」のはずが

60代半ばのことだった。健康診断で初期の大腸がんが見つかる。青天の霹靂だった。さいわい内視鏡手術で入院もしないで済み、転移もなかったので家族には告げなかった。

そして2年後、健康診断を担当したかかりつけ医からすぐ来るようにとの連絡が入る。胃の内視鏡の結果が悪かったにちがいない。案の定、ポリープを調べたらがん細胞が見つかり、ただちに大学病院へ行くようにとのことだった。

1ヵ月後に入院・手術となった。内視鏡で大丈夫といわれたが、術後の検査でリンパへの転移が懸念され、退院2週間後に再入院し、開腹手術を受けた。この2度の入院手術は心身へのダメージが強く、手術後も痛みや不具合があり、管につながれたベッドの上で落ち込んだ。

胃の術後ゆえ食事制限もあり、痩せ気味の私の体重はさらに激減し、あっという間に体力はなくなった。酒も飲まず偏食もせず、運動もして健康的な生活をしていたつもりの自分が、ステージIIの胃がんとは。いつ日常を取り戻せるのか、不安で不眠に悩まされた。

成長し、家を出た子どもたちが遠方から駆けつけ、付き添ってくれたのは心強かった。これまで病気知らずの「元気な母さん」だったので、子どもたちもショックを受けたようだ。

発熱や痛みでしばらく体調が悪く、体にメスを入れるしんどさは、これほどつらいものかと思った。克服したというにはほど遠く、定期的に検査を受け、結果を聞きに行くたびにドキドキである。少しの体の不調にも再発の2文字が浮かんでしまう。