明日から大相撲春場所が開幕します。新型コロナウィルス感染症の影響で、会場は従来の大阪府立体育会館から東京・両国の国技館に変更、観客数も減らしているため、会場に行けず残念がっている相撲ファンも多いことでしょう。『婦人公論』愛読者で相撲をこよなく愛する「しろぼしマーサ」こと、土屋雅代さんもそのひとり。深い相撲愛について綴った読者手記「初代若乃花に魅せられ相撲ファン歴60年。来世こそ男に生まれ変わって大横綱になりたい」が評判を呼びました。そこで長い観戦経験と豊富な知識をもとに、この春場所期間、テレビ観戦記を寄稿してもらうことに。初回は「相撲ファンの祈り」。開幕を前にはやる気持ちが伝わってきます

お前は神童だ。よく見抜いた

私の両親は、子供のころに私に英才教育をほどこした。英才教育といっても、学校の勉強はどうしたとか、テストの点とか、宿題はやったか、とかどうでもいいのである。東京の下町生まれの両親は、かなりの荒れた江戸弁を使うので、私の生まれ育った中野区の上品な住宅地では浮いた存在だった。

英才教育とは、相撲についていかに的確な意見を述べられるかだった。家は小学校と中学校の近くだったので、学校が終わって帰ると、両親はテレビで相撲観戦をしながら、自営業の装身具のケースを作り、その江戸弁で怒鳴っていた。父は

「なんで敗けやがったんだ。浴衣着てけぇっちまえ。昨日も敗けやがって」

すると母が言うのだ。

「彼女でも見に来てんじゃないかい。あがっちゃったんだよ」

「そんなはずねぇ。雅代。なんで敗けたか説明しろ」

その時、私が的確に答えられないと、両親は荒れる。

「雅代、ちゃんと見てたのか。おやつなんか食ってる場合か!」

だから、私は中野生まれの上品さで答える。

「父上母上、立ち合いの失敗です。どういこうかと最後の仕切りで迷いましたね」

父は言う。

「そうか、お前は神童だ。よく見抜いた」

その繰り返しが場所中の毎日で、相撲英才教育は中学校を卒業するまで続いた。そして還暦をとうにすぎても相撲のテレビ観戦をしないと、苦痛となるババアになってしまったのである。