まるでイラストから抜け出した少女そのものの田村さんのファッション。マスコットはお友達からの頂き物だそう。

悪いことばっかりじゃないわね

2020年の秋には『こもりびと』っていう、引きこもり当事者の方に取材したドラマが、話題になりましたよね。引きこもりの人は怠け者とかわがままと思われがちだけど、本来は繊細で頭が良い、詩人や哲学者タイプが多いと思うの。だから学校や職場の人づきあいに疲れたり傷ついたりして、外へ出られなくなっちゃった。

それが世界中の人たちが引きこもり生活になったことで、「自分は特別じゃない」と感じて、息をしやすくなったんじゃないでしょうか。今までブイブイ遊んでた人が、慣れない生活に悲鳴を上げてるのを見て、おやおやと思ってるかもしれないですね。

少なくとも、元祖・こもりびとの私はとーってもラク(笑)。ちょっと気が進まないイベントやパーティの誘いがあっても、「何だか熱っぽくて」と電話口で弱々しく咳なんかすれば、「それは大変。お大事に」って簡単に断れちゃう。コロナも悪いことばっかりじゃないわねって思うんです。

でもそうして断り続けていたら、今年になって「あら、だーれも連絡してこない。みんなに忘れられちゃった?」と少し寂しくなって。そのときふと頭に浮かんだのが、作家の萩原葉子先生が晩年に私にくださったお電話のことでした。

特に用事があるわけじゃないのだけど、毎日夕方6時くらいになると、「もしもし、私。いまどこ?」と携帯にかけてこられるの。私はちょうど実家の母が倒れた頃だったから、「電車で帰るところです」と答えると、「あ、そう。わかった」って、それだけよ。とても人見知りな方だったから、電話をかけるだけで相当努力されたんだと思うの。でも私にはそれが、何よりの慰めでした。

私もずっと電話が苦手で、かかってきたら出るだけの人でした。でもコロナ禍の今、ごぶさたしている人に思い切って自分から電話をしてみたら、相手の人も喜んでくれるし、さっきの坊ちゃんみたいに嬉しい声が聞けたりして。電話ってなんて便利で素敵な道具だろうって、江戸時代の人みたいに感激しちゃいました。(笑)

でも、長電話はしません。葉子先生の「いまどこ?」がとても気に入っているから、電報みたいにあっさりと。あなたのこと思ってるのよって、気持ちが通じればいいんだもの。誰々は元気かとか、学校は行ってるのとか、うるさいうるさい(笑)。そういう話題で女の人の電話はつい長編連続ドラマになりがちだけど、そこはシンプルな短編映画がいいと思います。