ルワンダの紙幣

 

国際通貨基金の、途上国中央銀行に対する技術援助計画でゆくのであるから、事務打合せのため、ワシントンの通貨基金本部に出頭しなければならない。

ワシントンで驚いたのは、通貨基金でも、米国国務省でも、またルワンダに赴任する途中立寄ったブラッセルでは、ベルギー外務省でも、ルワンダに子会社をもっているランベール銀行でも、ルワンダにいったことのある人は殆どおらず、資料も政治に関するもののほかはきわめて乏しく、こちらが知りたい経済に関するもの、法制に関するもの、民習に関するものは皆無に近かった。

 

荷の重いルワンダの通貨建直し

事前の調査は少なからず私をがっかりさせた。独立してから生産が落ちているのはどういうことだろう。

それに国際収支の大きな赤字である。しかも外貨は殆どないそうだ。すでに私の行動はこの厳しい事実で大きく制限されている。しかも計数的にはわからないが、この国際収支の赤字は財政の赤字からきていることは想像できる。財政という、中央銀行としてはどうにもならない要因で起った国際収支の赤字の後始末をしなければならないらしい。中央銀行の総裁よりも財政建直しの顧問を、ルワンダは必要としているのではないか。

それに最大の輸出物資がコーヒーとのことである。ただでさえ世界的に過剰のコーヒーを、1800キロという長距離を陸上輸送して輸出するのであるから、ルワンダの手取外貨がいかに少ないかが容易に想像される。

ほかの条件が等しいとしても、ブラジルに比べて陸送距離が非常に長いのであるから、ルワンダの農民はコーヒーに所得を依存するかぎり、ブラジルのコーヒー農民の低い生活水準より、陸送運賃分だけさらに低い生活水準を、今後も甘受しなければならないことになる。

それでは中央銀行のほうは動いているかと聞いたら、初代総裁は着任直後病気になって事実上なにもしていないから、中央銀行を組織するのはあなたの仕事で、はじめから建直すつもりでやってほしいとのことである。

東南アジア中央銀行研修に参加したインド、パキスタンの友人で通貨基金に勤務しているものから聞いたところでは、ルワンダからの要請で私の前任者は任期前に解任されたらしい。

それでは国際通貨基金の技術援助はすでにルワンダで失敗したあとで、そこに私がゆくのではないか。無からなにかを創造することはやさしくないが、崩れたものを再建することも至難である。これは大変なことになったと思った。

『ルワンダ中央銀行総裁日記』(著:服部正也)