正しい歯磨きで認知症や動脈硬化の芽を摘む
長谷川先生が口の中の状態に注目するのは、残っている歯の本数が、認知症の発症リスクや進行度と密接に関係しているからです。
「アルツハイマー型認知症患者の歯の本数は、平均して健康な高齢者の3分の1で、かつ失った歯の本数が多い人ほど脳の萎縮度が高いという報告があります。昔から『歯がない人はぼけやすい』と言われていますが、これは科学的に見ても正しいのです」
歯のあるなしだけでなく、歯周病もアルツハイマー型認知症の一因になるのだそう。
「歯周病になると、歯周病菌が出す毒素により、血液中に炎症物質『サイトカイン』が流れ込みます。これが脳に入ると、脳のごみと呼ばれるたんぱく質『アミロイドβ』が増え、海馬を中心にたまっていくのです。海馬は、記憶をつかさどる部位。ここの神経細胞がアミロイドβに圧迫され死滅すると、記憶力が低下します」
それだけでなく、全身疾患を引き起こす原因にもなるのだとか。サイトカインが血管を通じて全身に放出されると、インスリンが効きにくくなり糖尿病を発症しやすくなります。また、血管内で炎症が起こって動脈硬化になり、血管がつまったり切れたりすると脳卒中や心筋梗塞を発症する恐れも。さらに、誤嚥性肺炎や感染性心内膜炎も起こしやすくなります。
こうしたリスクを回避し、いつまでも健康に過ごすためには、正しい方法で歯磨きをして口の中を清潔に保つことが大切です。
「歯周病菌を減らせれば、サイトカインの発生を抑え、歯も温存できます。自分の歯で噛むと、歯の下にある歯根膜内の血管を圧縮。噛むたびにポンプのように脳に血液を送り込み、脳内のアミロイドβを押し流すことができます。今ある歯をすべて残すことを目標に、歯のケアをしていただきたいですね」
あなたの歯周病リスクをチェック!
歯のケアができているか、セルフチェックを。
1つでも当てはまれば、歯周病の疑いがあります
□ 朝起きた時、口の中がねばねばする
□ 口臭がある
□ 1回の歯磨きは3分以下
□ 歯間ブラシやデンタルフロスは使わない
□ 歯を磨くと出血することがある
□ 抜けたままにしている歯、治療せずに放置している歯がある
□ 1年以上、歯科を受診していない