イラスト:越智あやこ
最近、ウエストがきつくなってきた。健康診断の結果も気になる。でも口の中に幸せを運んでくれる食べ物の誘惑には、どうしても勝てないのです──(「読者体験手記」より)

長年控えていたクッキーに手が伸びて

「禁断の果実」とはよく言ったものだ。手にしてはいけないと思えば思うほどほしくなって、ますます燃える。人目を忍ぶ許されざる恋にも似て、その味は甘美で罪作り。そんな、道ならぬ恋よろしく魅せられ続けているのが、お菓子とお酒だ。

以前の私は、痩せの大食いではあるものの、ごはんやパンなどの主食にしか興味がなかった。若い頃からコレステロール値や糖尿病の指標となるヘモグロビンA1cの値が高かったこともあり、甘いお菓子やお酒の類は意識的に避けてきたのだ。

しかし、8年前に夫が55歳で早期退職してから悩まされ始めた「主人在宅ストレス症候群」で、イライラが高じてきてからは、健診の数値はむしろ悪化の一途を辿っている。「節制したって無駄じゃない?」。悶々とした不満だけがくすぶり始めていた。

とにかく家事が面倒くさい。特に食事の後片づけがたまらなく嫌になる。専業主婦ならやるのが当たり前とばかりに、手伝い一つしようとしない夫や2人の娘たちにも腹が立つ。食後に立つキッチンは、シンクに山積みになった食器が拷問の道具に見えて、私にとってはまるで地獄だった。

50歳を過ぎたある日、台所に下げられた食器の中に、高校生の娘たちが食べかけた袋入りのお菓子があるのが目についた。いつもなら、「食べるならきちんと食べて袋は捨てなさい! 残すならきちんと袋は閉めて!」と張り上げるキンキン声を、なぜかその日はグッとのみ込んで、チョコレートがたっぷりコーティングされたクッキーを頬張った。