「うっ、うまい!」。とろけるような甘さと、サクッとしたクッキーの食感がたまらない。脳内で快楽物質がブシャーッと噴き出すような快感を覚えた。私は残りをあっという間に完食した。

その後の食器洗いの楽しいこと、楽しいこと。いつもは嫌で仕方がない家事がリズミカルに片づく。口の中に残る甘いチョコレートの風味が、昼間の夫との口喧嘩でため込んだストレスも、遊び呆けてばかりの娘たちへの不満も、洗い物の面倒くささも、みんな忘れさせてくれる。

ところが、その日に限って娘たちが「さっきのお菓子の残りは?」と、キッチンにやってきた。「いわゆる別腹ってやつ? また食べたくなって」って、そりゃないでしょう。「食べないと思ったから、中身はこの腹に処分して、袋は捨てちゃったわよ」と答えると、「え? まさかキッチンで立ち食い? 行儀ワル~。サイテー!」と罵られた。

おまけに、「年取ってからそんな食べ方すると、また血糖値が上がったり、シワが増えたりするんだから。われら若者とは違うんだよ」と痛いクギを刺されて、口の中のほの甘さは、一気に苦味へと変わった。

しかし、娘たちからのこの罵りが、むしろ私のむさぼり食いに火をつけた。隠れてコッソリ味わうというスリルがたまらないのだ。どんなに面倒な後片づけも、お菓子を張りながらだと楽しくできる。地獄のキッチンを天国に変えてくれるお菓子の立ち食い。