家は住人の「性根」を雄弁に語る
住宅街を舞台にしたのは、2年前に『ディス・イズ・ザ・デイ』で日本各地のサッカーチームのサポーターたちを書いたことと繫がっています。その時取材した場所が全部面白かったんですよ。でも、世の中には見るべきところの何もない場所もあるわけで——「今まで行ったなかで一番面白くなかった場所を舞台にしよう」と思い立ったんです。地名は言えませんが(笑)、自分の知っている広大で活気のない住宅地とだけ。
そんな場所でも、家は意外と雄弁にさまざまなことを語ります。私は夜に散歩をすることが多いのですが、光さえケチっているように見える家がときどきあるんです。光を“所有物”のように考えていて、門灯を点けたり家の灯りが道に漏れたりするのを嫌がる。もちろんその逆の家もあります。
家の大きい小さいは関係なく、住んでいる人の「性根」が家のたたずまいからにじみ出ているようにも思えるんですよね。これも書きたいなと思い、ある家のモデルにしました。
生き方がまったく異なる人たちが一瞬交錯することで、自分の凝り固まった心が変化したり、思いもよらない方向に行ったりすることもある。物語の最後では、新しい道を見つけられた人もいます。「自分が見ている世界だけがすべてではない」と気付くことは、救われることでもあるんです。設定こそ住宅地という限定された場所でしたが、もっと広い世界の話を書きたかったのかもしれません。