「昔からなぜか脱獄や立てこもり事件に興味があって。『逃げているほうもやけど、逃げ込まれた側の人ってどういう気持ちなんやろう』と、ずっと考えていました」という作家の津村記久子さん。最新作は長年の疑問が出発点となった長編小説です

逃げ込まれた側の人の気持ち

ニュースをよく見るのですが、昔からなぜか脱獄や立てこもり事件に興味があって。「逃げているほうもやけど、逃げ込まれた側の人ってどういう気持ちなんやろう」と、ずっと考えていました。ちょうどミステリー雑誌から執筆依頼があったので、これをテーマに書いてみようと思ったのが本作です。

舞台は、路地を挟んで10軒の家が立ち並ぶ平凡な住宅地。そこにある日、「女性受刑者が刑務所から脱走した」というニュースが飛び込みます。自治会長の提案で、住民が交代で見張りを始めるのですが、実はそれぞれの家庭が、言えない秘密や事情を抱えている。

たとえば、ある夫婦は自分たちの手に負えない子どもを家の中に軟禁しようと考えています。また別の家では、一人暮らしの若い男性が世間への恨みを、ある犯罪行為によって晴らそうと計画している。逃亡犯の出現は、住民同士を接触させ、その心に化学変化を起こします。

 

『つまらない住宅地のすべての家』(著◎津村記久子 双葉社)