「20代の頃に一時期、ラジオ番組を持っていたことがあって。そのときのプロデューサーに、「絶対に『皆さん』と言っちゃいけない。聴いてくれる人は一人一人なのだから、『あなた』にこの曲を届けますと表現しなさい」と」(鈴木さん)

自虐系自分ツッコミの妙

鈴木 私がしをんさんのエッセイを読んで思うのは、自分のボケに自分でツッコミを入れるのが、名人芸!

三浦 エッセイは「自慢系」か「自虐系」のどちらかだ、とよく言われますが、私はありのままの日常を書くと自動的に、自虐系の自分ツッコミになってしまうんですよね……。ただ最近は、「うっとうしい」と思われることもあるので、なかなか難しいです。

鈴木 私も試行錯誤中ですが、かなりトホホ寄りだと思います。

三浦 その塩梅がお上手ですよね。お仕事の話題になって、「おっ、きらめく俳優さんとしての生活が?」と思うのに、絶妙にトホホ感が垣間見えて、「あれ?」と。(笑)

鈴木 もともとこういう仕事なので、普通に書いても自慢に取られがちだと思うんです。たとえば「今朝はご飯と納豆を食べました」と書いても、「美容と健康に配慮した特別なご飯と納豆」と読まれちゃうかもしれない。

三浦 お取り寄せの白米と高級納豆に、つやっつやの卵黄がのってるんだろうとか。(笑)

鈴木 だからつい、「いやコンビニで買ったんだけどさ」と書き加えたくなる。かといって、あまり戦略的になってもしょうがないかなって。三浦さんは、ご自身のパブリックイメージとの付き合い方に苦労はありませんか。

三浦 エッセイでは自堕落でお酒飲んでる生活しか書いてないですが、実際それが実像に近い。だからお会いした人に「しゃべり方もそのまんまですね」と言われることが多くて。もう少し素敵なイメージのおしゃれエッセイを書いていれば、そのイメージで誤解してくれた人もいたかもしれないのにと、やや後悔しておるところです。

鈴木 「なあなあ」シリーズのような作品を読むと、コミカルなイメージを持たれそう。

三浦 真面目な小説しか読んだことなかった人が、エッセイを読んで怒っちゃうパターンもあって(笑)。ネットで「なんていいかげんな生活なんだ」と書いてあると、すみませんと思うけれども、まあ、実態なのでしょうがないですよね。