映画『小早川家の秋』(小津安二郎監督、1961年)の浪花千栄子さん(『婦人公論』昭和54年7月号より)

竹のような浪花さんを好もしく思う

凛とした生き方を貫く浪花千栄子には力強いファンも多くいた。前出の池内紀も、彼女の演技についてこう述べている。

「浪花千栄子は、あきらかに三益愛子や京塚昌子とは違っていた。何がどう違っていたか。浪花千栄子が演じるとき、その母親には期せずして2つの姿があった。こっちを向いているときには、ありきたりの小さな世話女房だが、ふっとあちらを向くと、誰にも知られない顔をもっていた。彼女は男の論理にぬくぬくと生きて毛ほどの疑問を抱かない夫に対して、その好人物性をいとおしがりながら、そんな男と夫婦という絆で半生を共にした自分に深い悲しみを感じないではいられない。だから時折、夫をいたぶった。容赦なくいためつけた――まるで不甲斐ない自分をいためつけるようにして。あの役どころは単なる『役』ではなかったのではあるまいか?」(「浪花千栄子という女」)

前出の戸板康二の評伝によると、薬師寺の高田好胤管長は以下のように語っている。

「浪花さんを見ていると、なくなりつつある関西の女の良さがみなぎっている。ただ、やさしいだけではない。彼女は竹が大変好きだそうですが、竹は雪が積もれば身をかがめ、あらしには従順にしていながら、底には凛然とした強さを持っている。わたしも竹のような浪花さんを好もしく思うのです」(「物語近代日本女優史 浪花千栄子」内『読売新聞』昭和46年6月5日の引用)

千栄子自身も竹が好きだった。昭和41年に京都の嵐山に料理茶屋を建て、その名も「竹生(ちくぶ)」としている。茶室にも「双竹庵」という名を裏千家からもらった。