あれもこれも習うのはやめなはれ、一本でよろしい
仕事は順調で、養女の輝美との生活も満ち足りていた千栄子。昭和29年から3ヵ年連続で国民映画女優賞を受賞し。38年にはNHK放送文化賞を受けた。
そして、昭和48年12月22日の夜、消化管出血のため、自宅で世を去った。享年66。
花菱アチャコは「さびしいな。ド根性のある、シンのつよい人やった」と語り、作家の長沖一は「ほんとうの大阪弁を使える最後の女優さんだった」。演劇評論家の秋山安三郎は「ひとくちに言えばほとばしり出る才能を蔵しながらも、それを一向に、そとにはギラつかせない抑制が利いている世渡りであった」と評した(「物語近代日本女優史 浪花千栄子」より)。
最後に座談会で千栄子が若い世代に向けたアドバイスを紹介しよう。
「わたくし、若い女の人によく言うのです、あれもこれも習うのはやめなはれ、一本でよろしい、自分の好きなもの、それをちゃんとやり遂げて、免状もって、夫に捨てられたかて、死なれたかて、それによって自分がつないでゆける、そういうものを、嫁入道具としてもっていきなはれ、それがいちばんたしかだと言うてやりますの。
そして結婚したら、自分を大事にしてヘソクリなさい。そうしないと、さあ捨てられたといっても、電車賃にも困りますよって…」