「良妻賢母」の見本みたいだった同世代の知人女性も、「夫が亡くなったあと、自分一人のために料理をつくるのは面倒」と言っていました。家族のために頑張ってきた方はモチベーションを保つのが難しいのかもしれません。

そこで提案です。定年退職と同様に「調理定年」があっていい。さらに言えば、「家事定年」があってもいいのではないでしょうか。

以前、「女性に調理定年があってもよいのでは」と本に書いたところ、「気がラクになった」という反応がかなりありました。真面目な主婦ほど、宅食サービスを頼んだり、お惣菜を買うことに罪悪感を覚える方が多いようです。

でも、夫は定年退職したのに、妻は80歳を過ぎても家事に縛られているとしたら、ちょっぴり不公平。もちろん家事が日々の張り合いになっているなら問題ありませんし、そういう方を尊敬します。でも「いままで続けてきたから」「私しかやる人がいない」なんて言わずに、主婦業も堂々と定年宣言してよいと思います。

樋口恵子さんの新刊『老いの福袋』中央公論新社

「シルバー人材」「宅食サービス」を活用

「調理定年」「家事定年」を宣言した私は、人の手を借りることにしました。私は84歳で家を建て替え、娘と同居中ですが、彼女は医師として忙しく働いています。いわば大人が2人、シェアハウスで暮らしているような生活。食事時間も違いますし、家事をすべて娘に任せようとは考えませんでした。

そこで、週に2回、私が自宅で仕事をする日に、「シルバー人材センター」から派遣される女性に家事をお願いすることにしました。「シルバーさん」には、買い物、昼食の用意と夕食のつくりおき、掃除などをお願いしています。掃除は、週2回だけで十分。私はもともと神経質ではないですし。