「夫は定年退職したのに、妻は80歳を過ぎても家事に縛られているとしたら、ちょっぴり不公平。主婦業も堂々と定年宣言してよいと思います」(撮影:村山玄子)
昨日できたことが、今日できなくなるのが高齢者。家事が面倒になったらどうすればよいのでしょうか。『老~い、どん!』『老いの福袋』などの著書で、高齢者のリアルをユーモアをもって綴る樋口恵子さんは、何をするにもヨタヨタヘロヘロ=「ヨタヘロ期」まっただ中。ある時、「調理定年」「家事定年」したというが……(構成=篠藤ゆり 撮影=村山玄子)

買い物や料理がしんどくなってきた

私は、いま88歳。気づけば女性の平均寿命を超えました。50代の頃、仲間たちと「高齢社会をよくする女性の会」を結成し、2000年には「介護の社会化」を旗印にした介護保険制度を実現しました。最近では新型コロナウイルスが高齢者の生活に与える影響について、厚生労働省の分科会などで話し合っています。

常に書いたり走り回っている私ですが、後期高齢者になってはじめてわかったことがあります。70代までは元気だったのに、80代になったとたん、昨日できて今日できなくなることが増えてきたのです。

たとえば、買い物から帰宅した時、レジ袋を両手に提げたまま玄関からサッと上がるつもりが、框(かまち)に足をひっかけて派手に転んだことがありました。ある時は公共の和式トイレでしゃがんだあと、どうやっても立ち上がれなくなって……。これは思い出しても泣けてきます。

加齢とともに体力が落ち、体を動かすことが難しくなる──こうした高齢者の運動能力低下について、最近はフレイル(虚弱)、サルコペニア(筋力低下)などの名称がついていますが、何をするにもヨタヨタヘロヘロするので、私は「ヨタヘロ期」と呼んでいます。

 

85歳以上の女性の約28%が低栄養傾向

昔から掃除は苦手でしたが、料理は得意でした。もともと食いしん坊だったからでしょう。70代までは近所のスーパーやデパ地下でたくさん食材を買って帰り、自分好みの料理をつくって楽しんでいました。

ところが80歳を過ぎた頃から面倒になってきたのです。昔ほど空腹感を覚えないせいもありますが、次第に料理もおっくうに。好きなものを適当につまんでいたら、低栄養との診断を受けてしまいました。厚労省の国民健康・栄養調査によると、85歳以上の女性の約28%が低栄養傾向だそうです。