本連載がまとまった青木さやかさんの著書『母』

「これじゃ頑張っても死ねない」

両親も母方の祖父も、がんを患った。
身近な病気ではあったが、自分ががんだと告知されるとあまりにも驚いた。そして、
あまりにも軽く発表された。

「あ〜、がんですね、どうします?」

初老のお医者さんはパソコンを見ながら、わたしのほうに振り向きもせず言った。
それはまるで
「あ〜、雨ですね、傘持ってます?」
に、ほど近いテンションであった。
わたしは思わず
「かるい」
と呟いた。

「え、何がです?」
「いや、がん、て言うの、軽いなって思いまして」
「まあ、これ、がんだからねえ〜」
「あの、わたし、死ぬんでしょうか」
「死ねない死ねない、これじゃ頑張っても死ねない」
「かるい」

がんの発表は、初老のお医者さんのお陰で軽やかに終わったが、1人車に乗ると、心臓がばくばくしてきた。