(イラスト:おおの麻里)
家族から高齢者への虐待は、年間約1万7千件も確認されているそうです。高齢者虐待にも、さまざまなパターンがあり「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「介護・世話の放棄・放任」 に分けられています。また、虐待は、その状況の深刻さから 「緊急事態」「要介入」「見守り・支援」の段階に分けて対応すべきとされています。なかでも、虐待されている高齢者のうち、7割の方に認知症の症状がみられるそうです。守谷さち子さんの場合も、父の認知症から家族の間のトラブルが起こり――

一流大学を出て有名企業に就職した優秀な兄の秘密

小さなちゃぶ台を両親と兄と私が囲んでいる。5つ違いの兄が、私にちょっとしたいたずらをする。おかずを横取りしたり、私をつついてみたり、そんなことだったと思う。すると私は大声を上げ、泣きながらこう言ったものだ。

「さっきしたこと言ってやるから!」

兄は慌ててすぐに謝る。

「ごめんごめん、さっちゃん、ごめんね」

その一言で何事もなかったように泣きやむ、幼かった私。同じ場面が何度もあった。私の一番古い記憶である。

「さっきしたこと」とは何か。兄は私に性的虐待をしていたのだ。

兄は一流大学を出て、父と同じ有名企業に就職した。そんな兄が結婚相手に選んだのは、同じ職場の人だった。両親は絶対反対。とくに母の反対は凄まじく、一時は完全なノイローゼ状態に陥ってしまったほどだ。

結局は、両親が諦めて結婚を認めたが、当時、母が兄宛に書いた手紙が今も私の手元にあり、読み返すたびに母の兄への想いの切なさに泣いてしまう。

結婚して子どもが生まれた後、兄は実家の敷地の一角に、父の名義で家を建ててもらった。その後私も結婚し、同じ都内で暮らし始めたが、私という小姑の存在がなくなったとたん、兄嫁は母に子どもの世話を頼むようになった。兄夫婦にはさらに3人の子どもが生まれ、世話の頻度も増すばかりで、その大変さを母は私にこぼしていた。

そんな暮らしも、兄が海外勤務となり一家で渡航していったんは終了したが、数年を経て帰国。やがて80代半ばになった父に、認知症の症状が少しずつ現れ始めた。