「自分たちの存在は必要なはずだ」
放映後、多くの視聴者から反響が寄せられ、SNSでも大きな話題となりました。番組をもっとたしかな形で残したいなと考えていたところ、ご縁があって本を書くことができたのです。
コロナの感染拡大と番組制作の過程を時系列で追いつつ、演奏家たちの揺れ動く心の葛藤を描きたい一心で書き上げました。彼らの奏でた音楽には、「自分たちの存在は必要なはずだ」という希求のような響きがあります。それは、コロナ禍に同じ問いと直面した市民にも、生きる力を与えてくれるものだと思います。
ドイツのメルケル首相は、コロナ流行の早い段階で、「文化を大切にする」と宣言しました。いっぽう日本では、まだまだ文化・芸術分野に対する支援が手薄ですよね。いったん文化が途絶えると、復活させることは大変難しい。僕自身、音楽やアート、科学なども含め、「体感」が新たな気づきを生み出す大切さを発信し続けたいと思います。
村松秀
近畿大学教授、元NHKチーフ・プロデューサー
近畿大学教授、元NHKチーフ・プロデューサー。1990年東京大学工学部卒、NHK入局。科学・環境番組部、コンテンツ開発センターなどで一貫して番組を制作。2022年より近畿大学総合社会学部・社会マスメディア系専攻教授。「すイエんサー」「マサカメTV!」「発掘!お宝ガレリア」「もふもふモフモフ」「さし旅」「ガンバレ!引っ越し人生」など多数の新番組を開発、また「NHKスペシャル」「ためしてガッテン」等さまざまな科学番組を制作、特に環境ホルモン汚染や「論文捏造」問題をいち早く社会に問うてきた。近作に「体感トラベル瀬戸内国際芸術祭」「大人のアクティブ・ラーニング 人生相談ラボ」「日本エコー遺産紀行 ゴスペラーズの響歌」「コロナ時代の人情酒場横浜野毛の1か月」「指揮者なしのオーケストラ第9に挑む!」等。NHKサイエンススタジアムなどイベント企画運営も行う。文化庁芸術祭大賞、放送文化基金賞大賞、バンフ・テレビ祭最高賞、科学ジャーナリスト大賞ほか受賞多数。著書に「論文捏造」(中公新書ラクレ)、「女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?」(講談社現代新書)等。2018年から21年春まで東京大学総合文化研究科客員教授。各所での講演も多い。近大では「コトづくりのプロデュース」をテーマに実践的に活動中。