『イドコロをつくる 乱世で正気を失わないための暮らし方』著◎伊藤洋志 東京書籍 1650円
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは、伊藤洋志さんの『イドコロをつくる 乱世で正気を失わないための暮らし方』(東京書籍)。評者は詩人の渡邊十絲子さんです。

「負の感情の伝染」を防ぐ

いま、人と集まったり、思いきり息抜きをすることが難しい状態が続いている。非常時だから仕方なく予定を中止にしたり、やりかけのまま放置したりしていることが、誰にでもある。非常時のがまんをいつまで続ければいいのかわからないまま、少しずつ心にたまっていく不安や不満を、人は互いにぶつけあう。

この本の著者は、そんな不健康な状態への処方箋を示してくれる。目先の優越感のために他者を見下し、考え方の違う人どうしが激しい言葉で攻撃しあう光景は、いま世にあふれているが、こうした「負の感情の伝染」を防ぐというのが、この本のコンセプトだ。

自分の生きる意味や安心感がここにあると思えるような、楽しいイドコロの確保を、著者は勧める。それが最強の「心の免疫」になるからだ。なるほど人は、自分が受け入れられていることを実感できる場所でこそ、のびのびできる。そういう場所をもてば、心に余裕ができ、負の感情を人にうつさないでいられる。

この本では、イドコロの例を歴史にたずね、イドコロの形態や機能を見直し、イドコロの実践例を描写し、イドコロを作ることで人がどう変わるかを具体的に見せてくれる。生活のなかで気軽に通えるお店の開拓や、お金をかけずにお気に入りの「仕事場」を作る試み、趣味をつうじた人の集まりなど、さまざまなイドコロの可能性が列挙されていて、自分にできそうなものが見つけやすい。

魅力的なイドコロがあちこちに作られていけば、それは社会の共有財産として活用され、多くの人の「免疫力」を高めることにつながると著者は言う。あなたやわたしの小さな一歩が、「みんなのため」につながっていく。