『扉はひらくいくたびも――時代の証言者』著◎竹宮惠子/知野恵子(聞き手) 中央公論新社 1650円
今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは、竹宮惠子さんの自伝『扉はひらくいくたびも――時代の証言者』(中央公論新社)。評者は詩人の川口晴美さんです。

〈マンガで革命を〉という思いを抱いて

1976年に連載が始まった『風と木の詩』を読んだときの衝撃は、今も覚えている。少年どうしの愛を描く壮大なドラマ。そんな少女マンガはそれまでになかった。田舎の高校生だった私は、美しい少年たちの姿を通して他者との間に生じる精神的な、そして肉体的な葛藤と官能を、開いた扉から覗きみるというよりは疑似体験するように味わった。

作者の竹宮惠子をはじめ〈24年組〉と呼ばれる女性漫画家たちが70年代から80年代にかけて生み出したさまざまな名作は、そのように至るところで女子たちを現実の身体と環境からいっとき解放し、想念を自由に羽ばたかせてくれたのである。

本書では竹宮惠子自身が半生を語り、あの衝撃が当時の女子たちにどうやって届けられたか、臨場感たっぷりにたどられる。父母のこと、ジャーナリスティックな感覚を持ちつつ漫画家を志し、〈マンガで革命を〉という思いを抱いて描き続けた青春期。萩尾望都という天才との出会いと離別、スランプの果てにこじ開けられた扉。その扉の先に、私たちの今がある。

BL(ボーイズラブ)がジャンルとして盛り上がり、マンガを原作とするドラマが人気になり、女性の表現者による優れた作品が当たり前のように次々に発表される現在の状況は、こうして創られてきたのだと胸が熱くなる。ここ二十年は大学で教えることに注力してきた著者が、一区切りをつけて今またマンガを、今度はデジタルで描き始めたと語っていることに勇気づけられる。私たちの前にもきっと扉があるのだ。その先に何があって、どこにつながっているかは、こじ開けてみなければわからない。