「諦め」は人を殺してしまう
ゲームアプリ「hinadan」をつくった際に、多くの人から「コードを作るのは大変だったでしょう」と言われましたが、技術が進んでいて、プログラミング自体は10年前より格段に簡単になっています。大事なポイントはそこではないのです。要は、どう作るか、ではなく、何を作るかを考えることだと思います。
私の知っている例でいうと、周囲の困っている人を助けたいとか、周りの人と喜ばせたいという気持ちが有用なプログラムを生み出す「創造力」を育むと思っています。
たとえば、福井県勝山市には、プログラミングを勉強してイノシシなど野生獣捕獲装置を作った猟師の谷川一男さんという方がいらっしゃいます。持っている資格は測量士と猟銃免許と罠免許。プログラミングとはおよそ縁遠そうな60代後半くらいのおじさまです。
この地域ではイノシシが畑や田んぼを荒らす被害が多発していて、この問題を解決しようと谷川さんは一念発起。子ども向けのプログラミング教室に通って、赤外線センサーを使ってイノシシを捕獲する装置を作ってしまったんです。この装置で谷川さんは、たくさんのイノシシの捕獲に成功されています。
また、ある高校生の男の子は、認知症で徘徊するひいお祖父ちゃんを探すためのアプリをつくりました。センサーを靴に埋め込んでおくと、ひいお祖父ちゃんがどこにいるか分かるんです。ひいお祖父ちゃんを探しまわるお祖母ちゃんを少しでも楽にしてあげたいという気持ちから思いついたのです。
プログラミングは周囲の人を幸せにする力があります。この先の社会は人間とAIが二人三脚で歩んでいく社会です。けれど、こんなふうに人に役立ちたいという思いやりから育まれる創造力をAIは持っていません。こうした創造こそが、最も人間的な活動だと思います。そして、だからこそ私は常に創造的でありたいと思い続けています。
ところで最近、周りの方で「もう70歳だから」といって、なんでも「卒業」とおっしゃる方も多いのですが、それはもったいない。「諦め」は人を殺してしまいます。
人生は60歳を過ぎると面白くなります。それまでの蓄積が花を咲かせます。70代、80代は伸び盛りです。絶えず自分を「バージョンアップ」しましょう。与えられた人生を、持てるものを活かして使い切りましょう。
人生100年時代です。年を取るとお友達が亡くなったり、歯が抜けたり、髪の毛が少なくなったり、どうしても失うものが多くなります。けれど、失ったものを嘆くのではなく、何が残されているかを確認しましょう。失ったもの以上の、新しい知識・技能を身につけましょう。そうすれば年を重ねることは怖いことではありません。
ぜひ、社会の進歩、変化を一緒に楽しんでいきましょう!