若隆景「昭和の香り漂うサラブレッド」
元大関の高安(「高」は正しくははしごだか)にとっては、大関復帰に挑戦する場所となる。17年7月に新大関に昇進するものの、20年1月には約2年半守った大関の地位から陥落。しかし今年3月には小結で10勝、続く5月も関脇として10勝、と2桁勝利を挙げている。大関昇進の目安とされる「三役で3場所通算33勝」を今場所でクリアできれば、大関に再び返り咲けるのだ。今年2月には、演歌歌手の夫人・杜このみさんとのあいだに長女も誕生し、パパとなった。
高安本人は、「ますます頑張らねば」とだけ口にするのだが、安治川親方は、「僕の場合もそうだったけれど、家族の存在は大きい。心機一転、気合いが入るだろうね」とエールを送る。(編集部注:本校脱稿後、高安は腰を痛め、初日から球場になった)
若手の注目株のひとりは、若隆景だ。元小結の若葉山を祖父に、幕下力士を父に持つ《大波3兄弟》の三男。長兄は幕下の若隆元、次兄は十両の若元春という、相撲一家の血が流れる。東洋大学相撲部出身で、大学卒業後の17年3月、兄らと同じ荒汐部屋に入門。19年11月に新入幕を果たすと、一度は幕内の壁に跳ね返されて十両に戻るものの、着実に力をつけてきた新鋭だ。
前頭筆頭で迎えた先場所は、大関正代、朝乃山に土を付け、9勝6敗と勝ち越した。2場所連続で技能賞を受賞し、この七月場所は新三役として土俵に上がるのだが、「監察委員」の役職で毎日の取組を注視している武蔵川親方(元横綱武蔵丸)は言う。
「体はないんだけど、前に出る押し相撲で、これからが楽しみな存在だね。相手がまわしを取りにくくなる位置に手をあてがう《おっつけ》が巧いんだよ」
182センチ127キロの体は、力士としては決して大きくない。「体がないぶん、上位陣とどこまで渡り合えるか。相手が若隆景の研究をしてくるだろうから、これから真価が問われるんだ」。(武蔵川親方)
どこか昭和の力士を彷彿させる佇まいで、若武者のような雰囲気をまとう若隆景。小結だった祖父をいつか超え、3兄弟を引っ張ってゆく《末弟》の今後に期待大なのだ。