歌う人には、表現する力がある

清水 監督が3年に1本のペースで新作を発表しているのは、逆に1本の映画をつくるのに3年はかかる、ということになりますね。

細田 1人で絵コンテを描いてるときは、もう苦しいばっかりです(笑)。一転、楽しい気持ちになるのは、素晴らしいアニメーターと長く一緒に過ごせるとき。アニメーターが動きをつくったその芝居を、誰よりも先に観られる喜びは、なにものにも代えがたい。「今日、すごい原画を見たんだ!」って、帰りの道すがら叫んでまわりたいくらいなんですよ。

清水 たとえば、すず役の中村さんの声を聴いたときは「絶対彼女でいこう」と思ったんですか。中村さんが歌がうまいのは有名だけど、お芝居ができるってどうしてわかったんだろう。

細田 それは、すずの友人役の幾田りらさんも同じでしたね。最初は僕も「セリフ言えるのかな」ってわからなかった。でも、表現力がとにかくすごくて。岩崎さんも清水さんもそうですけど、歌を歌う人って、どうしてこう芝居もスッと自然にできるんでしょうね。

清水 歌うときに、演じてる部分がどこかにあるのかな。

岩崎 そうありたい、とは常日頃から思ってるんですけどね。

細田 ただ、中村さんもりらちゃんも、ミュージシャンとしては十分すぎるくらいに評価されてますけど、お芝居ができることはまだ誰も知らないわけじゃないですか。

清水 俺だけが知っている。(笑)

細田 いや、ほんと。コロンブスが大陸をはじめて発見したときと同じ気分ですよ。(笑)

清水 私たちの場合、お客さんが目の前で拍手してくれたり笑ってくれたりするので喜びを肌で感じるけど、映画監督は公開中の反応を毎回見るわけにもいかない。低次元な質問ですが、「俺に拍手をもっと」って思わないんですか。

細田 そういうのは、あまりピンとこないなあ。僕はやっぱりつくってる最中が楽しいんですよ。ジグソーパズルって完成すると、「もうつくれないや」という気分になるじゃないですか。あんな感じです。俳優さんや歌手の方が、お客さんを目の前に切った張ったしてるのは、本当に尊敬しかない。清水さんにとって、笑い声ってすごく力になるわけでしょう?

清水 力になるけど、逆に元気をなくすことも。スベッてることを実感できるときもある。(笑)