「最後の日に《やり切った》と自分が思えるための今日。どの選手も毎日濃い練習を重ねています。」(田中さん)

先が見えない五輪、パラリンピックでは

杉山 この1年間、テニス界もコロナ禍で無観客試合を重ねてきました。そんななか「今まで観客の声援からどれだけ力をもらっていたかわかった」と、選手たちはみんな言っています。でも、だからといって東京オリンピック・パラリンピックは有観客開催がいいとは思いません。本当に世界全体、日本全体のことを考えて冷静な判断をしてほしいと思います(取材後、無観客開催が決定した)。

田中 まったく同感です。私は今、オリ・パラ合わせて6競技の選手たちを見ています。共通して伝えているのは「最後の時に、やり切ったと思えることを目標にしよう」。通常なら「最後の時」とは決勝戦です。でもコロナ下では、本番直前に自分が陽性や濃厚接触者になり出場できない可能性もある。大会自体が中止になることもありえます。最悪の事態を常に想定するようにと、去年の3月から言い続けてきました。

杉山 私は自分が今、選手だったらどうかと考えます。先の読めない状況の中でコツコツとトレーニングを積むのは本当に大変なこと。その中でも持っている力をどれだけ出せるかが試されています。結果も大事だけれど、たとえそれを出す場がなくなったとしても、自分を信じて積み重ねたものは決して無駄ではありません。

田中 その通りだと思います。最後の日に「やり切った」と自分が思えるための今日。どの選手も毎日濃い練習を重ねています。発表の場があるかないかわからないという未来の不確実さが、逆に今の重みを際立たせている。

杉山 この大変な時期を選手として頑張ったというのは誇りに思えるはずです。またそれがセカンドキャリアにも、人としての成長にもつながると思う。だから本当に無駄なことは何1つないと、大坂選手をはじめ、すべての選手たちにエールを送りたいですね。

*この対談は6月17日に収録しました