樹齢300年のヒバが、役目を終えて静かに横たわる
「ヒバは、雨、風、雪に耐えながら、長い時間かけてゆっくり成長するから、この子はものすごくいい木なの」
生きる目的を見つけられなくて苦悩するモネを、励まそうと思って言ったのだろうか。サヤカさんはこう続けた。
「焦らなくてもいい、ゆっくりでいいんだ」
樹齢300年といっても、強い生命力を感じる立派な木に見える。しかし、寿命がくる前の良い状態の時に伐採するほうが、木を生かすことになる。サヤカさんはヒバの木を50年もの時間をかけてゆっくり自然乾燥させて、次世代に引き継ごうとしていた。
7月14日の放送で、サヤカさんが大切に思っていたヒバの木を伐採するシーンがあった。朝から泣かせないでほしいと思うのに、ブーンと音を立てて、チェーンソーがヒバの木肌に目を立てた瞬間から、私は泣けて仕方がなかった。
傾き始め、やがて倒れるヒバの木。でもなぜか、木は悲鳴を上げるのではなく、倒れることを受け入れているように静かに横たわった。
私はサヤカさんの年齢に近い。サヤカさんがそうであるように、私も自分の人生が終盤に差し掛かっているのを十分に知っている。だから知らぬ間に、伐採されるヒバの老木に自分を重ね、テレビの画面に引き込まれた。喜びと悲しみを、もし「量」で換算するとしたら、ほんのちょっとだけ喜びの量が多いおかげで、私は今日まで生きてこられた。それが幸せだと感じているから、いつかこの木のように、お役御免の日が来たら、静かに横たわれるのではないかと思った。