佐藤 父はずっと講談社の『少年倶楽部』で連載をしていたのですが、編集者が父から原稿を受け取るたびに「今回もまことにすばらしいお原稿で」と絶賛の雨あられで、それが当たり前になっていたんですね。ところが編集長が代わったとたん、「今回はまことに困りました」という書き出しの手紙が来まして(笑)。書き直せと言うんです。父は自分は絶対だと思っている人だから、「なんだ、これはッ!」と怒り狂って。母はわりと冷静な人だったので、姉と私にその原稿を読ませましてね。

五木 おやおや。

佐藤 読んだら、話がパターン化している。私は16、17歳だったけどこれはアカンと思いました。姉に「面白くないね。前とおんなじ」と……。(笑)

五木 身内から言われると、こたえるからなあ。

 

「不遜なるをもって筆を絶つ」

佐藤 それで母が父に言ったんです。「もう、十分すぎるほど書いてこられたじゃありませんか。このへんで小説はやめてゆっくりなさっては。お好きだった俳句でも作って」と。父は66、67歳くらいでしたでしょうか。この前、父の日記を見ましたら「講談社、不遜なるをもって筆を絶つ」と書いてあるの。(笑)

五木 それはすごい、なるほど。(笑)

佐藤 それ以来、父はエッセイの類も一切書かなかったんです。だから私も「やめ時」については考えます。97歳。もう断筆したほうがいいんじゃないかと思うことがしばしばです。

五木 身につまされるなあ。(笑)

佐藤 ただね、書いていないと、ほかにすることがないんですよ。外に出るのはあまり好きではないし、家でじっと庭ばかり眺めていても、ろくなことを考えない。われわれの先輩の作家たちは、いつやめるかというのをどうやって見極めたのか。

五木 確かに、「やめ時」というのはあるよなあ。