銀行口座開示に落とし穴が
通帳類は実家を探しても出てこなかった。それで、紙袋にまとめておいた父宛の郵便物の中から手がかりを探りました。金融機関や勤め先からの通知を1つずつ開封し、父が取引していた金融機関を調べたのです。その結果、どうやら銀行口座が9つ、証券会社の口座が2つあることがわかりました。
しかし、銀行に行って父の口座があるはずだから確認してほしいと頼んだところ、「お父さんが生まれてから亡くなるまでのすべての居住地で戸籍謄本を取り寄せてください」と言われたのです。新聞記者だった父は転勤で全国のあちこちに住んでいた。そのすべての役所に出向くのは大変! 各自治体に電話で問い合わせたら、役所に申請書を出せば郵送してくれるとのこと。とはいえ郵便でやりとりしていると時間がかかってしまうので、近郊の役所にはできる限り足を運びました。
ところが、最後に思わぬ壁にぶつかります。東京都文京区の役所は戦時中に空襲で焼けたため、父の戸籍謄本が残っていなかったのです。銀行で説明すると、「戸籍謄本を焼失したという証明書を提出してください」と。戸籍謄本焼失証明書なんて聞いたこともない。
区役所に相談に行ったら、案の定、「そんな証明書はない」と言われて。最終的には作成してくれましたけど、その間に何度も交渉。1つの銀行口座を開示してもらうのに、どれだけの労力と時間を費やしたことか! それなのに、残高がたった700円という口座もありました。
もしかしたら、探し当てることができなかった口座がほかにもあったかもしれません。11年当時は、銀行の支店名まで把握していないと、そこに口座があるかどうかを教えてもらえませんでしたから。ちなみに現在はルールが変わって、同じ銀行内であれば本支店すべての口座を検索できる「全店照会」というサービスを利用できます。
それにしても、私にとって相続の手続きは地獄の作業でした。もう二度とやりたくないですよ。
父の言葉どおり、預貯金はたくさんあり、全部で数千万円。父の所有していたマンションと駐車場の評価額の算定や書類作成は税理士にお願いし、結果、父の財産は総額約1億円に上りました。法廷相続人は私と弟の2人でしたから、当時の法律では基礎控除は7000万円。超過分の相続税を納め、ようやくすべての手続きを終えたわけです。