理想は<杉村春子さんの最期>

私は最期の場面を迎えるための準備を少しずつ始めている。

まず、「見限りのいい主治医」が必要だ。延命治療など望まないし、「頑張って」などと言われたくない。頑張りすぎず、ありのままに生きることが信条だったのだから、それを貫き通したい。

「田舎のバス」(作詞・作曲:三木鶏郎)がヒットした頃の中村メイコさん。『婦人公論』昭和30年5月号より(写真:中央公論新社)

ただ死ぬ瞬間まで、お洒落でいることはやめたくない。病院のおしきせの寝間着は嫌だ。私の好きな画家のマリー・ローランサンは、薄いグレーのサテンのネグリジェを着て、淡いピンク色のシーツに包まれ、ふわりと死んでいったという。ちょっと気取りすぎていて、私には似合わないかもしれないが、せめて綺麗にマニキュアはしたまま死んでいきたい。

理想は、女優の大先輩、杉村春子さんの死に方だ。二ヵ月半ほど病院で過ごされて、91歳で亡くなったのは平成9年の春だった。入院は極秘にされていたのでお見舞いに行くこともできなかったが、亡くなられた後に出版された本で、入院中の様子を知った。