見た人が明るい気持ちになるような最期の一幕を

杉村さんは、病院の中でもきちんときれいに浴衣をお召しになっていたという。

中村メイコさん。昭和49年3月25日、中央公論社にて撮影(写真:中央公論新社)

ハンサムな主治医の先生が大好きで、全面的に信頼していた。その先生が学会か何かで日本を一週間離れることになった。出発の前日、主治医は杉村さんの部屋に来て、言った。

「杉村さん、絶対に大丈夫ですからね。担当の医者たちにすべて指示してあります。お元気で待っていてくださいね」

それを聞いた杉村さんはやおら体を起こすと、「先生、帰ってきてくださるわよねぇ」と、医師の腕をかき抱いた。

「よっ、杉村春子!」という声がどこかから聞こえてきそうだ。人生の最終盤でこんな見事なシーンを演じられるとは! 

私も喜劇役者なりのやり方で、見た人が明るい気持ちになるような最期の一幕を演じ切りたい。