安全に考慮しながら快適さは損なわない

入居が決まった後は、長くこの家で暮らせるようにリフォームを施しました。高齢者の自宅での転倒事故は、2つ以上の動作が重なった時に起きると言われています。例えば、トイレに行こうと思ったらインターホンが鳴り、あわてて振り向いた時につまずくなど。そんな時も家が整っていれば、転倒のリスクは減らせます。

とはいえ、高齢者住宅のような手すりだらけの家では居心地が悪い。そこで、安全・安心面を考慮しつつ、快適さを損なわないような間取りを意識しました。

私の場合、東京の家の壁材や家具を再利用し、極力ゴミを出さないようにリフォームしたので、かかった費用は約450万円。一般的に、500万円前後あれば基本的なバリアフリー対策ができるでしょう。

「老後の資金も足りないのに」と思うかもしれませんが、60歳で500万円かけてリフォームをして80歳まで住むとしたら、1年で25 万円。月2万円ほどの費用で、住み慣れた自宅で好きなものに囲まれ、安全な生活が送れるとしたら、決して高くはないと思うのです。

また、バリアフリーというと、障害のある人や高齢者のためのものと思いがち。でも実は、誰にとっても家の中には小さな《バリア》があります。それが積み重なると、ストレスにつながってしまう。今回、自分でリフォームをしてみて、バリアを一つずつ解放していく大切さを強く感じました。

長年この仕事を続けてきて実感しているのは、住まいが整うと、元気で長生きをされる方が多いということ。早いうちに対策しておけば、老後も自分の家で暮らし続けることは十分に可能です。皆さんも、ご自宅の「これから」を考えてみてはいかがでしょうか。

大幅にリフォームしたのは斜線部分。(1)奥まった場所にあるキッチンはリビング内に移動。家族や友人と会話しながら炊事ができる (2)トイレは洗面所と和室の物入れを取り払い、面積を拡大。ドアは3枚の引き戸にした (3)風通しをよくするために、和室(現・洋室)の押入れの壁を障子にリフォーム。リビングとの間にある壁にはガラスをはめ込み、より明るい室内に