日当たり良好で、一年中暖房いらずのリビングダイニング。細長い間取りのため、テーブルの奥にバーカウンターを置いて部屋を区切り、窓際を仕事場として使っている(撮影◎本社写真部)
「住まいを考えることは自分の生き方を考えること」と話すバリアフリー建築の先駆者、吉田紗栄子さん。 3年前に購入・リフォームしたというマンションを訪れると、高齢になっても長く暮らせる工夫がちりばめられていました(構成=山田真理 撮影=本社写真部)

年を重ねても人が出入りする家

私は50年以上にわたり、障害のある人や高齢者のための住まい・施設のバリアフリー設計に携わってきました。私自身も40代で変形性股関節症を患い、歩く時は杖が必要な生活を続けています。

そんな私が長年暮らした東京から横浜のマンションに住み替えたのは、75歳の時。一人娘が熊本県の農家に嫁いだため、私と夫も将来はその近くで暮らそうと、3年前に南阿蘇の古民家を買いました。夫はその家が気に入って早々と移住したのですが、私は東京でまだ仕事があり、二拠点を往復する生活。以前の家は羽田空港までのアクセスが悪かったので、より便利な場所に越そうと考えたのです。

横浜は小さい頃からよく遊びに行っていて、馴染みのある街でした。都心まで電車で一本ですし、周辺のバリアフリー化も進んでいます。駅から徒歩圏内であれば、仕事や遊びに出かけるのもおっくうではありません。南阿蘇のように車がないと生活できない場所でも暮らしてみると、年齢を重ねたら公共交通機関を便利に使える場所に住むことが、一つの備えになると実感しました。

物件を探すなかで、一目で気に入ったのが現在のマンションです。築約50年の古い物件ですが、構造がしっかりしていて、管理も行き届いている。エントランスからエレベーターまでバリアフリーであることも確かめました。意外に見落としやすい集合ポスト周辺やゴミ捨て場の段差も、このマンションには見あたりませんでしたね。

年を重ねても自分の力で外に出て行けるか、そして人を招くことができるか。私のように住み替えという選択肢もありますから、体が動く50代、60代のうちから考えておくとよいでしょう。