東京に戻るとホッとする
加藤 私も少し演劇をやっていたからわかるけど、お芝居は舞台美術に衣装に、何かと大変でしょ。
渡辺 そうなんです。1本につき数千万円かかり、赤字になれば自分で持ち出し。これまで演劇に注ぎこんだ分を貯金していたら、悠々自適の晩年ですよ。今度、『喜劇 老後の資金がありません』という舞台に出るんですが、他人事じゃない、まさに私の話(笑)。しっかり貯金をしていたのに、娘の結婚式や舅の葬式でお金が飛んでいき、パート仕事もクビになってしまった主婦を演じるんですけど。
加藤 いざとなれば、山形に移り住めばいいんじゃない? 家があるわけだし。
渡辺 うーん。家を買った場所は、バスが1日1本しか来なくて、コンビニまで歩いて45分もかかるんです。冬は雪かきが大変ですし、ひとりで住む自信がない。
加藤 私も、夫が千葉に設立した有機農場(鴨川自然王国)に時々行って、草取りをしたり、田植えをしたりするけど、歳とともにしゃがんで農作業をするのがつらくなるわね。これまでは東京は仕事をする場所、鴨川は休息する場所だったけれど、いまは逆。鴨川で足腰とエネルギーを使って、東京に戻るとホッとする。
渡辺 鴨川には娘さんが住んでいらっしゃるんですよね。
加藤 そう、次女の八恵が家族と暮らしています。農村だから住んでいる人は高齢者が多い。それで八恵が、「集落の古民家をリフォームして、老人ホームにしたらどう? ママが入居すれば、きっと人が集まる」って言うのよ。(笑)
渡辺 老人ホームの主(ぬし)みたいな。登紀子さんがそこでライブをしたら、大盛り上がり間違いなし。
加藤 いまは終の棲家に田舎を選んで移住する人も増えているでしょ。そういう人が入居して、周りには地元の若い人や子どもがいて、お互いの力を発揮して暮らすのもいい。終の棲家を考えることは、この先をどう生きていくかを考えることだし、私は、ただ最後まで身軽でいたいっていう気持ちなの。