30代の頃から、居心地のいい空間を手に入れるために試行錯誤を重ねてきたエッセイストの岸本葉子さん。還暦という人生の節目を迎えた今、岸本さんが考える老いと暮らしの心持ちとは(構成=丸山あかね イラスト=松尾ミユキ)
50代後半に暮らし替え適齢期を迎えて
私は36歳でマンションを購入し、これで老後の住まいは万全だと思っていました。でも、どうやらその考えは甘かったようです。
たとえば、家を購入した時の大きな決め手の一つとなったのはリビングの大きな窓でした。年を重ねて家から出なくなっても室内に光を取り込めるし、開放感があるし、と考えていたのですが、実際には外の気温の影響を受けやすく、特に冬の寒さが予想以上に厳しくて……。
30代は重ね着で、40代はホットカーペットでなんとか。でも50代に入ったらごまかしがきかなくなってきて、自分の急速な体の変化こそが最大の予期せぬ出来事でした。
高齢者にはヒートショックが危険と聞くにつけ老後に不安を抱くようになり、還暦を控えた一昨年、壁や床の断熱対策も含めたフルリフォームに踏み切りました。
家を購入した当時は、結婚した時のことも想定して2LDKの間取りを選択したのですが、おひとりさまのまま老後に突入することがほぼ確定しまして(笑)。いつしか部屋数はいらない、ならば廊下もなくして部屋を広く使いたいといった具合に、フレキシブルな発想で自分にとって快適な住まいを作りたいと夢見るようになっていました。
さらに、約5年間にわたる父の介護を通して、寝室とトイレは近いほうがいいとか、トイレと洗面所の壁を取り払ってケアする人のスぺースを確保したい、といった我が家の改善点が浮き彫りに。
とはいえ、父の介護中は精神的にも体力的にもいっぱいいっぱいでした。父を見送り、これからは自分の老後について真剣に考えようと気持ちを切り替えた50代後半が、私の暮らし替え適齢期だったのでしょう。