祖母から電話は、祖母の兄の訃報だった

しかし、私は実家と疎遠で、とくに母親と仲が悪かったので、実家と連絡を取り合うことはほとんどなかった。でもその日に限って、言いようのない不安や人恋しさに負けて電話でもしてみようと思った矢先に、偶然にも祖母から電話がかかってきたのだ。

久々の祖母との会話が懐かしくてうれしかったので、しばらく近況などを話していたが、急な電話の理由は祖母の兄が亡くなったという話だった。祖母は、他家に養子に行った兄の縁続きで、祖父と結婚したらしい。祖母の兄は近所に住んでおり、しょっちゅうお互いの顔を見ていたからその死はショックが大きかったのだろう。

祖母は当時80歳くらいだったか。珍しく不安げに、「私も長くない」と言い出したので、励ますつもりで「夏にはひ孫も生まれるし、見てもらわんといけんわ。最低でも90まで生きてから大往生せんと、土産が少ないって、先に逝ったオトンやお兄さんに叱られるで」 と軽口をたたくと祖母は笑ってくれた。実は、この時すでに祖母は大腸がんの末期だったが、私はそのことを知らず、また祖母も何も言わなかった。

「死ぬ前に、赤身に少しサシが入った美味しい肉が食べたい」「一回でいいから海の中を見てみたい」「海外なら南米に行きたい」。

電話口でいろいろな希望を語る祖母に、そのうち美味しいお肉を送ることを約束して電話を切った。