ドアチャイムに起こされて

その2ヵ月後、祖母は亡くなった。亡くなる直前まで畑仕事をし、地区の寄り合いにも参加していたので周囲の人は誰もそんな状態とは気づかなかったという。

私は祖母の葬儀のため、久々に実家に帰った。しかし、疎遠になっていたうちに、実家の建て直しをめぐって、母が建築会社やきょうだいを巻き込んだトラブルを起こしていた。それ以外にもあまたある母の素行の悪さのせいで、葬儀中も親族からの厳しい視線をひしひしと感じる。私は耐えられなくなって、妊婦であることを理由に葬儀のあとすぐに自宅に戻った。

それからしばらくの間、私はうつのような状態になってしまった。何をする気力もなくてただただぼーっとする毎日。祖母はもう高齢だったので亡くなったショックはそれほどではなかったが、母が起こしたトラブルのせいで実家が無残にも放置されていたことや、きょうだいの境遇などさまざまな出来事が頭の中を駆けめぐる。結婚して家を出た私には関係のない、考える必要もないことのはずなのに、すべての責任が自分にあり、重くのしかかってくるような気がした。

そんなある日。夫は仕事仲間の手伝いに行って不在、義理の弟も夜勤の仕事で、たまたま家には私しかいなかった。精神的にも体力的にも、つねに家族以外の人間がいるストレスと、不安で眠れない毎日に疲れ切って夕方からうとうとしていたのだと思う。

玄関のドアチャイムが鳴る音がしたので、私は急いで起きてドアを開けた。すると祖母が立っていた。よそ行きの服を着て、綺麗に髪を染めてセットし、若々しい様子でニコニコしながらそこにいた。

私はなぜか何の疑問も持たず、祖母が遠いところから一人で遊びに来たのかなと驚きながらも、家に入れてあげようとした。すると、「よそへ行くついでにお前のところへ寄っとこうと思うて、頼んで連れてきてもろうた。家に上がるほどでもないけんな、気を使わんでええ。それよりちょっと子どもを見せい」という。

「まだ子どもは生まれてないで、せっかちじゃな」と笑うと、祖母も笑いながら、少し大きくなってきた私のお腹をさすり、「ああ、大きい子が生まれるで。女の子じゃな。元気で丈夫で、どえらい賢い子に育つ。この子は大切に育てるんじゃで。粗末なことをしたらいけん。生まれても私がようみちゃるけんな、気をつけて過ごせよ」。

「まだ男か女かわからんで」と言うと祖母はわかるでと言ってまた笑い、しばらく笑顔でお腹をさすり続けていた。