イラスト:網中いづる
ありえない、でも確かに感じる。突然わが身に起こった奇怪な現象。そこに込められたメッセージとは――。富田里沙さん(41歳・仮名)は、第一子を妊娠中、慣れない都会暮らしと結婚生活のストレスでうつ状態に。そんなある日、玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、そこに立っていたのは大好きな祖母だった。

故郷を出て4年で母になり、結婚生活のストレスが…

私は地方の古い農家に生まれた。父は私が小学校に入学する年に亡くなっているので、以降は祖母、母、兄、私、弟たちという6人家族だった。

高校卒業とともに就職し、働きながら美術の専門学校へ通った後、東京の会社に採用されて上京した。イラストレーターとしては鳴かず飛ばずのまま、そこで知り合った男性と結婚したのが20歳。22歳で子どもに恵まれたので、故郷を出てわずか4年で母親になった。

夫は当時、3LDKのマンションの一室でイラストや漫画を描く仕事をしていた。担当編集者やアシスタント、手伝いに来る友人など人の出入りが激しく、おまけに途中で義理の弟が上京して同居しはじめた。私は妊娠初期からずっと体がしんどい状態だったが、出入りする人たちのぶんの食事の面倒を見たり、自分たちの日常のことをしたりしなければならなかった。

結婚して2年たっても、故郷から遠く離れた都会でたった一人、妊娠や出産の悩みを相談できる友達もいないし、義母は北海道にいて頼れない。さらに、落ち着いた家庭生活が送れないことにかなりストレスが溜まっていたのだと思う。ある時から「実家へ帰りたい」と思うようになり、祖母が作った稲荷ずしを思い出しては無性に食べたくなった。