寮には全国から来た高卒の新入社員がたくさんいた
中学校の研修旅行で、水島コンビナートを見学に行ったことがあります。煙をモクモクと吐き24時間稼働している巨大な工場がカッコよく見えて、自分もこんなところで働きたいと思ったのでした。まだ公害という言葉もない高度経済成長期で、工場が近代の象徴のように見えたのです。
それ以来、都会に出て工場で働くことが目標になりました。高校は普通科でなく、工場に有利だと思って機械科を選びました。工場がどんなところか想像もしないで、外観に憧れていただけなのでした。
高校を卒業して、大阪府枚方市にあるステンレスの線を作る工場に就職し、その会社の寮に入りました。寮には全国から来た高卒の新入社員がたくさんいて、みんなが方言で話すので話が通じないこともありました。
新入社員の配属が決まり、ぼくはステンレス線を作る現場に配属されました。ステンレスの太い線の先を削ってダイヤモンドの穴に通して、それをモーターで引っ張って細くする仕事で、それを何回も繰り返してだんだん細い線にしていくのです。ぼくは研究室みたいなところで働けるものと勝手に想像していたので、正直ガッカリしました。
機械は24時間稼働しているので、1週間おきに勤務時間が8時間ずつズレて行く3交代制でした。夜勤の始まりは0時からで、2時、3時になってくると機械のゴーッという音が気持ちよくなって、ついウトウトしていると、ステンレス線がパチンと切れて飛んでくることもありました。目なんかに刺さったら大怪我です。こんなことをいつまでやらされるのかと思うと、こんな工場を選んだ自分が情けなくなってきました。