母が教えてくれた老後の教訓かも
「1週間ほどして、弟から『これから救急病院に連れていく』という連絡が入ったんです。トイレで出血したらしく、本人も腹痛で苦しんでいるというので、慌てて駆けつけました」
そのときカズコさんの頭をよぎったのは、万が一入院ともなると、そのまま寝たきりになってしまうんじゃないかということ。そもそも、コロナ禍で医療が逼迫しているときに診察してもらえるのか。
「心配と不安が押し寄せてきて、私のほうがパニック状態でした」
幸い、すぐに診察してもらえたが、診断の結果は「閉塞性大腸炎」。脱水により血流が悪くなったことが原因で動脈硬化が起こり、腸管が腫れて出血したのだった。即入院となったが、絶食して抗炎症剤の点滴が投与されると出血はすぐに止まり、5日間の入院ですんだ。
入院中は、感染対策のため家族であっても病室に入れない。そのかわり、ミエさんが点滴スタンドを押しながら面会室まで機嫌よく歩いてくる。その姿を見て、寝たきりは杞憂に終わった。カズコさんたちがほっとしたのは言うまでもない。
「重湯から始めて普通食に戻すまで10日ほどかかりましたけど、この程度ですんでよかった。医師からは、『これからはしっかり食事と水分を摂ってください』と言われて、母も素直に聞いていました」
日課だった夕方2時間の草むしりも、今はやめているそうだ。
「出血がなかったら、暑さのせいと放置して、さらに大ごとになってしまっていたかも」とカズコさんは振り返る。もし脳や心臓で動脈硬化が起こったら、命にかかわる事態になっていただろう。
「私ももうすぐ70代ですから、今回のことをきっかけに考えさせられました。ただの不調と思いこんだり、体力を過信したりすることは禁物ですね」
母が身をもって教えてくれた老後の教訓かもしれない、とカズコさんはうなずいていた。