依存症の専門医として著名で、メディアへの出演も多い松本俊彦先生が依存症についての本を刊行しました。「中学生から大人まで幅広い層が読めるようにまとめた」と語る、その真意とはーー。(構成=古川美穂)

「ダメ。ゼッタイ。」は当事者を孤立させる

私の専門は薬物依存の研究ですが、仕事の半分以上は診察や治療です。なかでも10代の患者さんを診ると、いろいろなことを考えさせられます。

カフェインを含んだエナジードリンクを摂ることから始まり、市販薬を乱用したり違法薬物に手を出したりするうち、さまざまな健康被害やトラブルが出てくる。依存症にはほかにもゲームやスマホへの耽溺、さらに依存に類似した現象として摂食障害や自傷行為があります。

彼ら彼女らが病院に来る手前で病だと気づき、適切なサポートが得られたらと思い、『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?』には具体的なエピソードを多数盛り込みました。

ところで、厚生労働省の薬物乱用防止キャンペーンでは、「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーが30年以上も使われていますが、薬物を使用した人を完全否定するようなこの言葉は、当事者を孤立させ、治療への道を阻む危険があるのです。

否定するのではなく寄り添う考え方を提案する本があればと、ずっと思っていました。本書は「14歳の世渡り術」という叢書の1冊ですので中学生でも読めるように書きましたが、大人の方にも広く依存症について理解していただきたいと思いながらまとめたものです。

松本俊彦『世界一やさしい依存症入門 やめられないのは誰かのせい?』河出書房新社1562円