2012年以降、厚生労働省による認知症施策として普及が進み、現在全国に6000ヵ所以上ある「認知症カフェ」。19年にカフェの運営をスタートし、その活動が注目されている「SHIGETAハウス」を取材しました〈取材・文:篠藤ゆり 写真提供:SHIGETAハウスプロジェクト(一般社団法人栄樹庵)〉
それぞれの思いが偶然重なって
神奈川県の平塚駅から徒歩約20分。閑静な住宅街にたたずむ木造2階建ての日本家屋の前に、毎週火曜日になると「Hiratsuka cafe(平塚カフェ)」の看板が立つ(緊急事態宣言期間中は一時休業)。
ここは、認知症専門医の繁田雅弘さんが中心となり、認知症になっても安心して暮らせる街づくりを目指して運営される「SHIGETAハウス」。認知症を持つ方やその家族などが利用できる「平塚カフェ」と、認知症への理解を深めるさまざまな活動を、「SHIGETAハウスプロジェクト」の二本柱として掲げている。
拠点となる築50年の一軒家は、もともと繁田さんの実家だった。繁田さんの母・栄子さんは夫を見送った後ひとり暮らしを続けていたが、徐々にもの忘れの兆候が見られるように。
「たまに実家に帰ると、同じものをたくさん買ってあったり、冷蔵庫に賞味期限切れの食料がたくさん入っていたり、これはまずいな、と。地元で認知症の専門医を探し、出会ったのが先生です」
内門さんは、繁田さんの実家から車で10分ほどの「湘南いなほクリニック」で認知症の訪問診療を中心に行っている。その後、栄子さんは訪問診療を受けながら生活を続けていたが、段差が多く転倒のリスクの高い日本家屋での生活は危険と繁田さんは判断し、2017年、栄子さんの施設入所を決断。実家は空き家になった。