松重豊は<黒歴史>になると感じていた『孤独のグルメ』

今や松重豊さんの代表作となった『孤独のグルメ』(写真提供:写真AC)

*『孤独のグルメ』DATA
放送:2012年1月5日~2021年9月25日/(土)午前0時12分(2015〜) 

原作/久住昌之『孤独のグルメ』(扶桑社) 脚本/田口佳宏他 演出/溝口憲司他 出演/松重豊 ナレーター/植草朋樹(テレビ東京アナウンサー) プロデューサー/川村庄子(テレビ東京)、吉見健士(共同テレビ) 制作/共同テレビジョン(制作協力) 制作/テレビ東京 賞歴/ATP賞特別賞(2017)、東京ドラマアウォード優秀賞(2013)

テレ東深夜ドラマが成し遂げた画期的なことのひとつが、バイプレイヤーの主役への起用だ。主役は主役、脇役は脇役、という業界の暗黙の了解、視聴者の側の古い常識を壊してみせたのが、テレ東の深夜ドラマだった。

その象徴的作品になったのが、いうまでもなくこの『孤独のグルメ』である。主人公の井之頭五郎を演じるのは、数十年間バイプレイヤー一筋でやってきた松重豊。連続ドラマの主演は初めてのことだった。

松重本人も、当初は「ただ食べているだけ」のドラマの面白さがわからず、絶対に自分の”黒歴史”になると思っていたらしい。ところが、街でも声を掛けられるなど反響は大きく、考え直したという。いまやシーズン9まで続く、堂々たる松重の代表作になった。

 

同番組のキーワード「夜食テロ」「孤独」

人気の理由としては、「夜食テロ」というパワーワードを生み出したように、いかにも食欲をそそる料理が毎回登場することが、まず当然ある。それが高級レストランなどでなく、どこにでもありそうな街中のひっそりとした店であったりするのもポイントが高い。

それに加え、タイトル通り、「孤独」というのもキーワードだろう。

深夜ドラマというのは、多くの場合、ひとりきりで見ているもののはず。画面の向こうの井之頭五郎もまた、家族連れの多いレストランであっても、はたまたみんながお酒を飲んで陽気になっている居酒屋であっても、ひとりで黙々とご飯を食べる。

しかし、それは決して寂しいことではない。五郎のこころの声を語るナレーションが物語るように、とても充実した至福の時間なのだ。「孤独もまた楽し」。そこに深夜の視聴者も共感するのではないだろうか。