いまの時代ならではのホームドラマ『きのう何食べた?』

人生の機微を表現する主演2人の演技は、達者の一言『きのう何食べた?』(写真提供:写真AC)

*『きのう何食べた?』DATA
放送:2019年4月6日~6月29日/(土)午前0時12分

原作/よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社「モーニング」) 脚本/安達奈緒子 監督/中江和仁、野尻克己他 出演/西島秀俊、内野聖陽他 プロデューサー/阿部真士(CP)、松本拓他 制作/テレビ東京、松竹 賞歴/ギャラクシー賞マイベストTV 賞(2019)、同奨励賞(2019)、東京ドラマアウォード優秀賞(2019)

近年のドラマに起こった最も大きな変化のひとつは、LGBTと呼ばれるような性的少数者の人たちをメインにした作品が定着したことだろう。

ブームを巻き起こした『おっさんずラブ』(テレビ朝日系、2018年放送)、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、2020年放送)など、人気の話題作も少なくない。

そうしたなかでも、この『きのう何食べた?』は、ちょっと大人のドラマである。

よしながふみの同名人気漫画が原作。西島秀俊演じる筧史朗は弁護士で、内野聖陽演じる矢吹賢二は美容師。ともに2人は40代のゲイカップルで、同居生活を送っている。

 

穏やかで確かな日常、そして幸福

もちろんそこには、職場でカミングアウトするかどうか、財産分与をどうするか、といった、ゲイ、そしてゲイカップルであるがゆえの悩みや葛藤が、職場仲間や友人、また周囲の同じゲイの人びととの交流を通して描かれる。

だが同時に、そろそろ老境にさしかかった親との関係性など、誰もが直面する問題がじっくりと描かれる。

要するに、この作品のすぐれたところは、性的マイノリティの人びとの話だからといって特殊なこととして描くのではなく、むしろ誰にでも当てはまる普遍的な話を丁寧に描いているところにある。そんな人生の機微を表現する主演2人の演技は、達者の一言だ。

毎回物語の鍵になるのが、タイトルの通り「食」だ。史朗は、毎日自宅で夕食を作る。バランスをちゃんと考えた料理を作る、節約上手でもある。賢二も、史朗の作る料理をなによりも楽しみにしている。

2人で囲む食卓。穏やかで確かな日常、そして幸福が、そこにはある。『きのう何食べた?』は、いまの時代ならではのホームドラマだ。

※本稿は、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)の一部を再編集したものです。


『21世紀テレ東番組ベスト100』(著:太田省一/星海社新書)

テレ東が発揮する〈アイデアの力〉。自身も長年にわたってテレ東に魅了されてきた社会学者が2001年以降に放送された番組の中からベスト100を選出し、「テレ東っぽさ」の秘密に迫る!