新しい「世界の見方」を楽しんで

その後も他の仲間を交え、私たちは絵画や仏像や現代美術を見る旅を続けました。2年半の間、交わした言葉は作品鑑賞のことだけに留まらず、人はなぜアートに惹かれるのか、視覚とは何か、今の日本で障害者として生きること、差別意識、夢や記憶、人間とは――と広がっていきました。

川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』集英社インターナショナル2310円

 

そもそも白鳥さんのアート鑑賞は、大学生の時に「どうやったら自分もアートを楽しめるか」と考えて実行に移したことがきっかけ。それが近年の美術館来場者と視覚障害者とのワークショップの実現などにつながっています。

彼の存在を通して世の中を眺めると、自分を含めたいろいろな人が幸せになるためには何が必要か、ということにも気づかされます。

今の世の中は、起承転結のはっきりした「物語」や「正解」が求められ過ぎて、一見無駄に見えることや素朴な疑問が置きざりにされていると感じます。一枚の絵にさまざまな見方があるように、読者の皆さんも新しい「世界の見方」を楽しんでいただけたらと思います。