管理組合役員に立候補
故郷の高知に住む兄一家に電話で知らせると、義姉が「私がお手伝いするから、もう高知に帰ってきたら?」と言ってくれた。これまで人なみに病院にかかってはきたが、がんでしかも末期の闘病となると心配ごとも多い。兄一家が近くにいれば安心だし、心穏やかに暮らせそうだと思い、私は東京を引き払うことにした。
両親が暮らしていた実家は兄一家が住んでいるため、住居を探さねばならない。この地域では高価格帯の、駅近にある新築マンションに狙いをつけた。四国では大手の企業が販売しており、内覧してみれば設備面や内装も合格点だ。東京のマンションを売却して得た金額に300万を足して、3000万円で一括購入した。
私の周りには、「夫が亡くなったら、戸建てを売却してマンションに移りたい」という人がたくさんいる。たしかにマンションは快適だ。鍵1本で戸締まり完了、わずらわしいご近所付き合いもほとんどないし、ゴミは敷地内の集積所に24時間いつでも出せる。実際住んでみれば、便利さと引き換えに騒音やペットなどの問題に悩まされることも多いが、マンション暮らしが長い私には想定内だ。それに新築だから、設備面ではたいした問題も起こらないだろう。
我ながら、いい再スタートを切れた。管理組合の規約によれば、輪番制で理事会の役員をやらなくてはいけないらしい。最初にやったほうが体力的な負担も少ないだろうと考えた私は、初年度の管理組合役員に立候補することにした。
役員たちから煙たがられて
引っ越して間もなく、管理組合の理事会に出席すると、私以外の役員は全員40~50代の働き盛りのお父さんたちだった。初めてマンションを購入した人ばかりらしく、管理の話がおざなりになってしまうのではないかと心配になる。果たして、その予感は的中した。
最初の議題は、新聞配達について。「いま、各部屋の玄関まで朝刊を配達してもらっている住民がいるが、『夕刊も届けてほしい』と要望があった」。なんと、毎朝5時から1時間、その住民たちのためだけにオートロックの設定が解除されていたのだ。安全性よりも新聞を取りに行かずにすむ便利さを優先するとは。いったい何のためのオートロックなのか。
「オートロックって、防犯のための設備なんですよ。やみくもに解除するなんてありえないですよ」と猛反対したが、役員たちは「そんなに大騒ぎすることですかね」と反応が鈍い。その後、なんとか私の主張が通り、住民投票を行った結果、僅差ながらオートロック解除は中止に。新聞は集合玄関のメールボックスに配達されることになった。