サウジアラビアの街角で(著者撮影)
1744年アラビア半島に誕生した国、サウジアラビア。王室内の権力闘争や過激主義勢力との抗争、石油マネーをめぐる利権などもあり、その内実はヴェールに包まれている。高尾賢一郎・中東調査会研究員によれば、近年ではアブドッラー国王の治世下において規制緩和がなされ、女性の就業や自動車運転がようやく当たり前にみられるようになったそう。しかしそれらはあくまで政治的意図に沿ったもので女性たちの優先順位に沿ったものではないため、「ある意味で日本と似た構図になっている」とのことで――。

皇太子の「1979年以前に戻る」発言

2017年10月、リヤドで開催された経済会議で主催者を務めたムハンマド皇太子は次のように発言した。

我々はただ、1979年以前の状態に戻るのであるこれはつまり世界あらゆる宗教と伝統また人々に対して開かれた中庸・穏健なイスラームへの回帰である

地域に目を向ければ、「1979年以前」と聞いて人々が思い浮かべるのはイラン革命やソ連のアフガニスタン侵攻であろう。国内でいえばメッカでの聖モスク占拠事件だ。いずれにせよ、この発言が中東地域の安全保障環境の整備を含意することは確かである。

しかし、もう少し別の角度から考えたい。「1979年」といえば、サウジアラビア国内の「過激化」が指摘されるタイミングだ。ここでいう過激化は、必ずしも上に記した地域・国際情勢ではなく、むしろローカルな文脈での社会の保守化を指す。それは女性が車を運転できなくなったり、娯楽施設が街から姿を消したり、宗教警察の監視の目が厳しくなったりといった変化のことである。

もちろんこれは、イスラームが変質したわけではなく、人々を取り巻く環境が変わったためだ。以下、現在進んでいる社会の変化を「女性」というテーマに沿って説明したい。

もちろん、ここでいうのは生物学的な区分ではなく、男性とは異なる認識や役割が社会のなかで与えられる、ジェンダー(社会的・文化的につくられた性別差)にもとづいた女性だ。サウジアラビア社会の特性を見るとき、女性はとかく話題に上りやすい。ほとんどすべては、イスラームの教えやサウジアラビアの家父長的な慣習を背景に、女性の権利が制限されているというエピソードだ。これを念頭に置きつつ、今日の変革の目玉として女性が取り上げられている状況について見ていきたい。