世界制覇する勢いで「馬旅」へ
1年ほど通ったある日、乗馬クラブで「モンゴルの草原を走ろう」というチラシを見た私は、すぐに旅への参加を決めた。少しでも馬で駆け足ができるようになった者にとって、モンゴルの草原を走ることは憧れである。
モンゴル乗馬旅行は、期待以上の魅力に溢れ、まさに天国だった。果てしなく続く緑の草原、見上げれば青い空。雄大な自然がありのままの私を包み込んでくれた。日焼けした逞しい遊牧民を先頭にただ走る、走る。草原に自生するハーブの香りを含んだ風が髪を揺らし、馬のを揺らす。
乗馬クラブでは、柵に囲まれた馬場を何度もぐるぐる回るだけだったのに、モンゴルではどこに行こうと自由だ。一日ひたすら走って、日が暮れればテントを張って寝る。知らない人との集まりなのに和やかな雰囲気。こうして私の馬旅と馬仲間の輪は、どんどん広がっていった。
その後の海外旅行は、もっぱら馬旅に。『モンタナの風に抱かれて』という映画に触発されて、主人公が馬と心を通わせたアメリカ・モンタナ州を馬で駆けた。オーストラリアの小さな島・タスマニアではホーストレッキングを体験。
ウェールズがホーストレッキング発祥の地と聞き、イングランドとの国境からアイルランド海まで200キロも馬で走破したこともある。ニュージーランド、ハワイ、グアム……、馬で世界制覇する勢いだった。
経済面はなんとかなったが、なんともならなかったのは、乗馬につきものの落馬による怪我である。背骨の圧迫骨折、手首の骨折、鎖骨骨折、肋骨骨折……と4回も骨折を経験した。一番大変だったのはオーストラリアで落馬したとき。肋骨が4本折れていると診断されて即入院となった。息をするたび痛む胸に、異国の病院で過ごす夜の不安は増すばかり。
飛行機の着陸時の減圧で肺の傷口から空気が漏れ、死に至る恐れがあるなどとも言われ、傷口が塞がるまでの3週間、現地で療養生活を送る羽目に。だが娘や友達の心配をよそに、退院後は現地の乗馬クラブのロッジでホームステイを楽しむことができた。