イラスト:谷本ヨーコ

「元気で長生きするためには運動習慣が大切」と言われます。医学博士で鍼灸師の劉勇先生によれば、加齢とともに減少しやすい筋肉量を運動によって増やすことで、血液の循環が改善され、肌ツヤもよくなり、見た目も若々しくなるそうです。しかし、50代以降の運動はリスクを伴うのも事実。77歳の森好子さんの趣味は乗馬。「馬に乗る姿は、到底70代には見えませんよ」と言われるけれど、落馬の怪我はつきもので――

身を委ねると心も体も軽くなる

45分の乗馬レッスンが終わると、秋だというのに汗だく。ヘルメットを脱ぐと髪は洗ったばかりのようにぐっしょり濡れている。

「森さんが馬に乗る姿は、到底70代には見えませんよ」

乗馬クラブのオーナーの言葉で、私の疲れは秋空の彼方へ飛んでいく。乗馬という趣味を持ったことは、人生の大当たりだったとつくづく思う。

始めたのは、教師の仕事に行き詰まっていた40代のことだ。当時勤務していた中学校は学級崩壊の嵐が吹き荒れており、反抗的な男子生徒に負けまいと、乱暴な男言葉を使ったり、怒鳴ったりした。150センチに満たない身長なのに肩をいからせて歩き、虚勢を張る毎日。自分が自分でなくなるようだった。

そんなとき、たまたま見かけた「馬に乗ってみませんか」というポスター。衝動的に乗馬クラブの会員となり馬の背に跨ると、目の前に新しい世界が広がった。馬の目は優しく、背は温かく、身を委ねていると心も体も軽くなる。ホースセラピーという治療法があるが、私は無意識にこの治療を受けていたのかもしれない。

乗馬は贅沢なスポーツだ。幸い私は公立学校の教師だったので、自分の給与で賄うことができたが、私のクラブでも入会金10万円、月会費1万2000円、騎乗料45分3500円は、最低限必要な料金。乗馬用品などを買い揃え、交通費も入れると、月に5万円はとんでいった。