高橋大輔と伊藤みどり
冨士 あなたが高橋大輔さんなら、私は伊藤みどりさんよ。忘れもしない、1992年のアルベールビル・オリンピックで彼女が銀メダルをとった日に、人生で一番ひどい骨折をしたの。その日は昼間からテニスをして、夜は句会の仲間としこたま飲んで帰ったんだけど、テレビで彼女がトリプルアクセルを決めたのを見て、「私も跳べるかも」と思っちゃったのよね。
吉行 で、跳んだの?
冨士 跳んだのよ、午前2時に(笑)。そしたら着地に失敗して、足首を複雑骨折。痛くて痛くて、リズが言うには「母さん! 母さん!」って叫んでたって。
吉行 まったくもう。
冨士 足がぶらぶらだから、五寸釘みたいなボルト2本を十字に入れる大手術になっちゃって、1ヵ月くらい入院したかしら。『婦人公論』で対談連載のお仕事があって、脚本家の市川森一さんとオペラ歌手の林康子さんが病室に来てくれたの。確か舞台もあって、車椅子で出演したんだった。
吉行 私も大腿骨骨折で2ヵ月入院している間に、ドラマの撮影が入っていたの。最初は無理だと思ったけど、局の人は「歩けなくてもいいですから」と言うし、主治医も「少しでも動いたほうがリハビリになる」って言うから、車椅子で現場まで通ったわ。
冨士 よくやったわねえ。亡くなった岸田今日子ちゃんもそうだったけど、昔っからあなたたちはお仕事大好きなんだもの。
吉行 今日子さんといえば、前に3人で一緒にドラマに出たときも、あなた骨折したでしょう。
冨士 そうそう、『女三人乱れ咲き! 氷川きよし追っかけツアー殺人事件』ね。
吉行 佐渡島での撮影初日に、折ったのよね。
冨士 海岸を歩きながら、浪曲「佐渡情話」の主人公のおみつの悪口を言ってたから罰が当たったのね(笑)。すてーんって転んで、とっさについた左の手首がポッキリ。
吉行 陶芸家の役だったのに、ろくろが回せないからその役は今日子さんに代わって、脚本も書きかえてもらったじゃない。
冨士 そのことは申し訳なく思ったわよ。でも夏だからギプスはかゆいし、お風呂にも入れなくて、私だって大変だったんだから。