イラスト:谷本ヨーコ
年齢とともに病気や怪我が増えるのは、女性の体ならではの理由がありました。健康に暮らすための心構えを、女性医療に長年かかわる専門医が教えます(構成=内山靖子 イラスト=谷本ヨーコ)

60代でほぼゼロに

2020年のデータによると、日本女性の平均閉経年齢は50.8歳。30代後半から60代前半まで個人差はありますが、閉経を境に、以降は膝が痛い、関節がこわばる、尿漏れが起こる……など、全身のいたるところに不調を訴える女性が増えてきます。なぜこうした不調が次々と起こるのか。それには、女性ホルモンが大きく影響しています。

女性ホルモンにはエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類がありますが、閉経後の体調を大きく左右するのは前者のほう。初経の前後から女性の体を守り続け、ずっと元気を与えてくれるアクセルの役割を担っています。

それが、40代前半のときを100とするならば、60代ではほぼゼロになってしまう。それと同時に、ホルモンが守ってくれていた部分がどんどん弱くなっていくのです。

もちろん、女性ホルモンが最も守ろうとするのは、膣回りや子宮などの妊娠・出産にかかわる部位。ただそれ以外にも、私たちの体内には女性ホルモンに守られている部分がたくさんあります。骨や血管、脳から、筋肉や消化器系の臓器まで、女性ホルモンが作用して、それぞれの機能をしっかりサポートしてくれている。

閉経後はその守り神である女性ホルモンの助けがなくなってしまうわけですから、全身のいたるところで不調が起こるのは当然のこと。人によって訴える症状が違うのは、もともとその人の弱い部分から不調を感じ始めるからなんですね。

男性と同様に、加齢にともなう全身の機能や代謝の衰えによって生じる不調もあります。つまり、そうした加齢によってゆっくり進んでゆく老化と、女性ホルモンの急激な減少によって、ガクッと一気に進む老化──閉経前後の女性の体には、この2種類の老化が同時に起こるわけです。

そのため、下り階段をガタガタところげ落ちるように、体のすべての機能が衰えていき、病気になったりするのです。